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「さらにいくつもの」見に行きました [番外]

 ”完全版”というよりも、”新劇場版”と言ったほうがよいと思われる「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」を見に名古屋に行きました。

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 片渕監督も何回か訪れている「伏見ミリオン座」です。 作品自体や監督への信頼は絶大なんですが、見る前の不安が2点ほど。それは、稲葉菜月ちゃんが声変わりしていないか? と、自分の膀胱が耐えられるかです。(168分長いよ!) 結果的に、どちらも問題ありませんでした。 稲葉さんはきっと、中年になっても幼児が演じられる ”間宮くるみ”2世になってくれるでしょう。 上映時間のほうは、この作品は年寄りのファンも多いので、”トイレ休憩”有りの上映もあってもいいのではないでしょうか?

 さて、肝心の本編。 オープニングタイトルで、ひらひらと、追加がありましたね。 序盤は追加シーンないのかなと思ってたら、小学校の場面でいきなり追加シーンが。 これで、”水原いいやつ”説がますます補強されました。 追加シーンは単なる原作の補完ではなく、原作マンガのコマとコマの間をより具体的に表現している印象でした。 

 20年4月の周作とリンの再会のシーンは、原作くらいの匂わせ方くらいでいいのではないかというのは私の意見。 一方で、知多さんのラストシーンは想像以上に重かった。 原作では、わかる人にだけわかるような描き方でしたが、知多さんの重い足取りを見て、多くの観客が今後の彼女(と彼女に代表されるほかのあまたの被爆者)の辛く長い闘病生活に思いを巡らせたでしょう。

 20年9月の枕崎台風襲来では、北條家に久々に笑いが戻るのですが、最後に周作に台風の被害者並びに近年の西日本豪雨の被災者に配慮したセリフを言わせています。 こういうところの配慮が行き届いていますね。

 そして二葉館のシーン。 すずがリンの喪失を確信するに至る ”あるもの”が具体的に描かれていて辛い。 グサリときた! こういう具体化はきついなぁ。 


 私はね、前の劇場版でテーマを「すずさんと戦時中の暮らし」に絞り込んだのは非常に正しかったと思っています。 テーマが絞られたことで、結果的に本作品は多くの世代のファンを獲得するに至ったわけですから。 だから今後も、二つの劇場版は異なる性格の独立した作品として、それぞれが受け入れられていくんじゃないかな。 様々な世代に受け入れられる「この世界」、きっと地方の公民館で上映されるのはこっちなんだろうなぁ。 そして「こうのワールド」の一つの完成形として、あるいは「戦中に生きた女性たちの物語」としての「さらにいくつもの」。 本当に不思議な作品だな。 ところで、片渕監督の次回作は「諾子」姫が「清少納言」になるくらいの話とか。 見たいです。

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 昼食はミリオン座近くの「PIN」の瓦そば。 ミリオン座の半券持って行くとドリンクサービスになりました。 山口県グッズであふれているのは店長が下関出身だからだそうです。

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 お土産はプログラムと晴美の巾着。 リンバージョンもあるといいね。

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ひろしまブランドショップ TAUに行きました [番外]

 東京に行ったついでに、銀座の ”ひろしまブランドショップ TAU”に行きました。 夏に訪れた時は何もなかった”この世”グッズも、今回はたくさんありました。 「さらにいくつもの」公開が近いからかいねぇ?

 その”この世”コーナーの隣にあった”水兵さんのバッグ”。 水原がしてそうなやつですが、ちょうどこういう布製のかばんを探していたので即購入。

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 A4サイズも入ります。 呉中通りの”ステッチハウス”さん製ですが、このブランドは“制服のフジ”さんがやっておられるんですねぇ。 こんなかわいいのも作ってるんだ。 ぜひ、金魚柄のハンカチも作ってください。

 さて、今回の主目的は2階の鯉々に行くこと。

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 コーネと肉玉そば。 コーネうまい! ところで最近気になってたんですが、最近の広島のお好みは生地と具材を重ねただけの”ミルフィーユ風”が主流なのね。 私は野菜の上に生地を少しかけ、卵をのせて軽くつぶして少し待ってからひっくり返してギュウギュウつぶす、昔ながらのスタイルの方が好きなんですが。 大きく伸びたお好み本体に味付けしたそばを挟み込むやつね。

 なんか、大阪の方から「あんなにつぶしたら、具材本来の食感がわからんようになるわ」とか言われて気にしたのかな?

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”百一 hyakuichi” 2/3突破!! どうまとめるの? [こうのまんがの謎]

 「百一 hyakuichi」の連載も第67回に。 2/3突破しました。


「百一 hyakuichi」第51回~67回まで

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 *クリックすると大きくなります


 物語は進んだようで進んでないような。 あさはかな女流歌人説は真っ向否定されましたが、というか”太田さん平安人説”も怪しくなってきたような。 このまま彼氏と結ばれて… というような普通の展開になるのでしょうか? それとも最終回3部作(か5部作か、6部作)で彼女の秘密が明らかにされる??


 これまでに登場した詩(1/2)

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 これまでに登場した詩(2/2)

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 季節柄、まずは秋の詩→冬の詩と登場してくると思われますが。 さあ、どの歌をラストに持ってくる?

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「この世界の片隅に」 地上波初放送! ”のん”復権のきっかけとなるか? [番外]

 R元年8月3日、NHK総合で21時から劇場版が遂に地上波初放送となります。 放送時間が2時間6分なので10分近くカットされている模様ですが、どのシーンがカットされていますか? なお、この日は同じく総合の15時5分から「夕凪の街 桜の国2018」、16時20分より「”この世界の片隅に” コトリンゴの映画音楽-完全版-」が放送されます。 NHK本気です。 さらに1週間後の8月10日には、ラジオ第1と総合で「#あちこちのすずさん」が放送されます。 (昨年の放送の、”山を買うお金”でスイカを買ってきたお母さんのお話が印象的でした。)

 封切りから3年経って、ようやく地上波放送が実現しました。 これで、映画館に行かない人、ネットとかSNSとかCATVとかに無縁の人々(うちのオカンのような人)に目にしてもらえますね。 思えば、熱心なファンの中でも”地上波は難しい”と思っていた人は多かったのではないでしょうか? 協賛している朝日系でさえ成し遂げられなかった地上波放送。 本当にNHK様様です。 ”N国”とかが議席を獲得しても、やっぱりNHKは必要だよね。

 さて、なぜ地上波放送が難しいかというと、それはやっぱり、主演の”のん”こと能年玲奈さんとの契約トラブルを抱える、元の所属事務所 レプロエンタテインメントの無言の圧力があるからだ! というか あるあらしい... (誰も認めないので、そうとしか言えない… ) ということは、国民の皆様も薄々と感づいているのではないでしょうか?

 これまでも、能年さんの表舞台復帰は近いという楽観的な記事が度々出てきましたが、そのたびに いちいち それを打ち消すような否定記事が必ずぶつけられてきました。 それだけ、レプロの影響力は強大で、かつ業界ぐるみなんだなぁという印象を持たざるを得ませんでした。

 今は例のジャニーズ圧力問題で風が吹いたかなぁと思ってたら、他で大きな芸能ニュースが続いて、せっかくのマネージャーさんの捨て身の告発も世間的には大きな話題になって来ていません。 ジャニーズ問題も大手放送局が早速否定したりと、本当に業界ぐるみで持ちつ持たれつやってんなぁという印象を新たにしました。 こうなったら、公取委にもう一度動いてもらうしかないんでしょうね。 そのために必要なのは、国民の声。 今回の地上波放送を見た一般の人々が、「そういえば あまちゃんの娘、何で最近テレビ出てないの?」 「なんで 名前変わっちゃったの?」という声を上げてもらうしか。

 NHKも「いだてん」のテコ入れで出演させたいよね? まずは、「なつぞら」で声だけの”声優役”でサプライズ出演させて盛り上げてくれんかねぇ。 N国が台頭して来ても応援しますから。

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”百一 hyakuichi” 「女流歌人説」 つぶしにきた~~!! [こうのまんがの謎]

 ”百一”、後半に入ってから怒涛の展開が続いています。 主人公の太田普及子さんは、その容姿から平安美人モチーフで 有名女性歌人の生まれ変わりか、あるいは(生き永らえた) ご本人ではないかとの仮説を立てていたのですが… 第52回「あらざらむいまひとたびの」で和泉式部、第53回「よをこめてよにあふさかの」で清少納言、そして第54回「やすらはでかたぶくまでの」では赤染衛門と主要な女流歌人が立て続けに登場しています。

 まるで、浅はかな”女流歌人説”をあざ笑うかのように、怒涛のラッシュが続きます。 はたして来週は、「めぐりあひてくもがくれにし」なのでしょうか?


(R元年6月20日追記) 第55回は63番の左京大分通雅でした。 紫式部残したよ… ちなみにあの茶髪の子は、やっぱり”みか”でしたね。


(R元年7月19日追記) 第59回で紫式部の詩が登場。 ”女流歌人説”完全に詰みました。

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”百一 hyakuichi” ついに1/2終了! これからどうなる?  [こうのまんがの謎]

 平成30年の3月末に連載開始となった ”百一 hyakuichi” が、令和元年5月に第50回をむかえました。 ついに折り返しです。 これまで見えてきたモノ、新たなナゾ、謎、なぞ…


後半の歌が本格登場

 まだ前半の歌が9首残っているのですが、第44回からは本格的に後半の歌に突入しました。 これは、いわゆる最終回3部作(5部作くらい?)にまわす歌をカモフラージュするための措置か? ちなみに後半に入っても、有名女流歌人の歌は未登場です。


作者の著作に関する年表 ”百一 hyakuichi” 第50回までの道のり

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登場した歌(1)

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登場した歌(2)

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出たっ、ヤンキーネタ!!

 第41回の「あひみてのむかしはものを」では、太田さんが少女時代にスケバンだったことが明らかに。 往年の こうのまんが定番のヤンキーネタ復活に狂気したファンは多かったのではないでしょうか? 恩師から、昔 没収された鎖鎌を返してもらい、”てへペロ”する太田さんがおちゃめ。

 鎖鎌は「長い道」の中でも 道と遊さんが的確に使いこなす様子が描写されており、作者がこの武器に精通していることが伺えます。 きっと、こうのさんの現役時代愛用の武器だったんでしょう。 と、ほのぼのとした感じで終われれば良かったのですが、実は、この回には大問題が。 太田さんが通常の人間と同じように歳を取っているという事が明らかになったのです。


1028歳じゃない??

 あれ、太田さんの1028歳(自称)というのは、本当に”自称”だったのでしょうか? 実は、第25回の「ちはやぶるからくれなゐに」でも、太田さんの幼稚園児時代が描かれているのです。 この時は、見て見ぬふりをしようかと思ったのですが…

 今まで、太田さんは永遠の命を持っていて、あの姿のまま(少なくとも)平安時代から生き続けていると思っていたのですが、違ったのでしょうか?(オタフクソースのオオタさんの方は このパターン)

 それとも、「おもいでエマノン」のように前世の記憶を持ったまま(自分の娘に)転生していくというスタイル?? もしそうだとすると、第11回から出ている あのおばあさんは 太田さんの前世ということ?! 謎は深まるばかりですが… 実は太田さんが1000歳超えという事を示す描写は、作中にはまだ一切出て来ていないのです。


細腕繁盛記?

 太田さんが今住んでいる店舗付2階建て木造住宅は 元お好み焼き屋で、あのおばあさんが店主だったという事が第48回で明らかになります。 このあと、太田さんがそのお好み焼き屋を再興するのか? 第45・46回で出会った彼氏との仲はどうなるのか? いろんな展開を期待させながら、物語は後半に入って行きます。


アリの恩返し??

 第49回「ありまやまいでそよひとを」は、病気のありこさんに助けを請われるお話し。 きっと、太田さんは助けてあげるのでしょうが、気になるのが太田さんの着ている服。 素敵なワンピースにも見えますが、これ、貫頭衣じゃない?! とすると、実は太田さんは平安時代どころか大和古墳時代の人間で、助けたありこさんの恩返しで不死の命を授けられた…っつうこと?

 残念ながら、第50回では この話しの続きは描かれなかったのですが、本当に色々深読みできて楽しい作品ですね。 さあ、後半はどういう展開が待っていますか。

 このままのペースだと、”百一 hyakuichi”は令和2年の夏ころに完結する予定と思われます。

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広島に行ってきました [番外]

 所用で子供と広島に行きました。 さすがに広島でも、「この世」グッズを見つけるのが難しくなってますねぇ。 おりづるタワーでさえも なーんも置いてなかった。 ようやく見つけたのが、「キャラメルもみじ」とコレ。

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 「広島フィギュアみやげ」(と「山口フィギュアみやげ」)  写真には6個しかありませんが、実際は7個買いました。 神龍がよべる? 中を開けてみると...

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 すずさんが2体、尾道フェリー2隻、もみじまんじゅうストラップと宮島の鳥居。 あと、お好みが出たらフルコンプでしたのに。 山口の方は”萩の反射炉”。 瓦そばのストラップは このフィギュアのシリーズではなくて、川棚グランドホテルのお土産コーナーで買ったもの。 違和感なし。

 「さらにいくつもの」が公開されると、再び「この世」グッズが出るのでしょうか? 

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”百一 hyakuichi” 1/3終了! 2年目に回したのは??  [こうのまんがの謎]

 「週刊漫画ゴラク」に連載中の ”百一 hyakuichi”ですが、今週で34回… つまり連載1/3を突破しました。 これまで出てきた詩を調べて見ると、52番の句までしか使われていません。 つまり、1年目に前半、2年目に後半の句が使われるという事? 季節感を大切にする作者のこと、きっと、百首を季節ごとに分類して、どの号に どの句を載せるかを予め決めているのでしょうね。 1年目に前半の句、2年目に後半の句とした方が分類もやりやすいということか。

 と、すると、何故 既に51番目と52番目の句が出てきているのでしょうか? 51番 「かくとだに」は第20回(9月7日発売号)に、52番「明けぬれば」は第18回(8月24日発売号)に登場しています。 無季の句の配分バランスがうまく取れなかったから前半に回したのでしょうか? というよりも、前半50句の中に、どうしても後半(特に最終回近く)に回したい句があったのではないでしょうか。

 主人公の太田さんは”永遠の1028歳”。 永久の命を生き長らえてきた彼女を象徴する詩。 例えば、35番の「人はいさ 花ぞ昔の」は、まさに太田さんの心情を表しているのではないでしょうか? また、38番「忘らるる 人の命の」、あるいは50番「君がため 長くもがなと」などは、人より長く生きる(常に見送る立場の)太田さんの悲哀を表すのに相応しい句ではないでしょうか? ひょっとして最終回候補?


百一 34回までに使われた詩

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 実は太田さんの正体ではないかと疑われる有名な女流歌人は後半に集中しています。 これらの平安美人の詩がどのように使われるか楽しみです。


作者の著作に関する年表 百一1/3突破編

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 ところで、太田さんならぬ オオタフク子さんが主演のオタフクソースのコラボCM第3弾。 ついにオオタさんが海外進出を企てていますが、どうしてみんな 語学留学にはニュージーランド行くかね? うちの広島の姪っ子もニュージーランドにホームステイに行ったよ。 広島とNZって何か縁があるのかな?

 さて、最終話となる今回ですが、ラストシーンは外国のバラックの中でお好み焼きを振る舞うオオタさんの姿。 第1話に通じていますが、私は思わず シュモーさんを連想したよ。 原爆で家を焼かれた人たちのために、広島と長崎で仲間と一緒に家を建てて回ったシュモーさん。 その後、朝鮮戦争や中東戦争でも被災した人たちのために尽力されました。(「この世界」の聖地巡礼ツアーでもシュモーさんの活躍は紹介されているようです。)

 「小さな幸せを 世界の幸せに。」という、今回の企画。 美味しいものを振る舞って幸せになろうというオタフクソースさんの考えの根底には、戦後のバラックの中から幸せを見つけてきた広島人の誇りと、シュモーさんのような人を慈しむ気持ちが流れているのかな?

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オタフクさん?! ”百一 hyakuichi” 1/4終了 [こうのまんがの謎]

 オタフクソースと片渕監督のコラボCMの主人公 ”オオタフクコ”さんの設定が、”太田さん”と被るなぁと思っとったら、”オオタフクコ→おおたふきゅうこ”!! ああっ!! キャラクター原案も こうの先生じゃないか! まさかのオタフクソースつながり。 それで、平安人にしてはお好み焼きにうるさいわけだ。

 ”百一 hyakuichi”の連載も25回まで来て1/4終了(?)しましたが、ここまでの傾向では前半の句が読まれていますね(No.52まで)。 そして、”太田さん”の本体ではないかと疑われる女流歌人(和泉式部、紫式部、赤染衛門、清少納言など)の句はまだ登場していません。 これからどう展開していきますか。

 オオタフクコさんのCM第2弾は11月リリースだそうです。

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「捕虜第一號」と「約束の海」 [八月が来るたびに]

 今年の夏休みに読んだ本。

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 「海街diary」じゃなくて、酒巻和男著の「捕虜第一號」です。

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 昭和24年11月15日発行という大変古い本です。 地元の図書館に蔵書があったので借りたのですが、外装がボロボロなので、ブックカバーに入れて大切に読ませていただきました。 酒巻和男は、謎の”第23回(20年正月)”の 『ホ』の札に紹介された、特殊潜航艇に乗って真珠湾湾内突撃を目指した10名のうち、ただ一人生き残り、「九軍神」にならなかった代わりに 太平洋戦争における”日本軍人の捕虜第1号”となった方です。

 彼の数奇な運命に惹かれた 作家の山崎豊子は、彼女の絶筆となる小説「約束の海」の主人公の父親のモデルとして彼を登場させています。 というよりも、「約束の海」自体が、自身の最後になるであろう作品の主人公として酒巻を描きたいがゆえに、過去編の主人公となる酒巻に対比する形で、”ある事故により重い十字架を背負った現代の潜水艦乗りの自衛官”として、現代編の主人公の花巻朔太郎が設定されているのです。(同作のあとがきなどによる)

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 山崎の死去によって第1部にて終了した同作ですが、構想ノートなどによれば、第2部では花巻の父 ”和成”の戦争体験、すなわち、真珠湾攻撃から日本兵捕虜第1号になって米本土の収容所暮らしの中で日本人としての自分を見つめ直すという、まさに酒巻の戦争体験が語られます。 そして、かつての特殊潜航艇の訓練地である宇和島の海を見ながら、親子で真の平和を実現することを誓いあう姿が描かれます。 続く第3部では、潜水艦艦長となった朔太郎が父との約束を胸に、東シナ海の水面下やアジア各国で平和を守るための静かな戦いに従事する姿が描かれるという壮大な物語となる予定でした。 完成していれば(映画化もされたでしょうし)、我々日本人が平和とは何か? 国を守るとはどういう事か?を、あらためて考え直すきっかけとなったでしょう。 本当に未完のまま終了したことが惜しまれる作品です。

 さて、「捕虜第一號」に話しを戻すと、こちらは酒巻が真珠湾攻撃に参加し、捕虜となって米国本土の収容所を転々とした後に帰国するまでが、4章構成で描かれています。 第1章では、酒巻が海軍に入隊した後に”特殊潜航艇(甲標的)”の乗組員に選抜され、厳しい訓練の後に最初で最後の実戦である真珠湾攻撃に参加して捕虜になるまでが記されています。 コンパスが故障した艇を必死に操作しながら真珠湾内突入を目指して奮闘する姿が、当事者でしかわからない生々しさで描かれるとともに、華々しい航空打撃部隊の活躍の影に隠れた”特殊潜航艇”の作戦行動を記録した、歴史的にも非常に貴重な証言です。

 第2章は、はからずも日本軍人の捕虜第一号となってしまった彼が、米本土内の収容所生活の中で いかに再生していったかが描かれます。 大戦中とは思えない収容所周りの大自然の描写や、帰国までに彼自身が移送された複数の収容所について書かれています。 第3章では、収容所内の日本人捕虜(米国在留邦人も含む)の暮らしぶりが詳細に紹介されています。 日本軍の階級制を利用しながらも、統率された誇りある捕虜生活を模索する花巻達の士官組に対し、もはや軍の階級などお構いなく実力(腕力)主義に走ろうとする者たち(単に荒くれ者だけでなく、大戦後期の非軍属の徴用兵も多かった)。 自らの保身のために階級偽装や、他人を貶めるような密告を行うもの。 そして、過度なストレスにより精神に異常をきたす将官。 これも実に生々しい話しですが、保身のための嘘を繰り返した者や、玉砕の地でさっさと投降して米軍の宣伝放送に加担した下級兵が、帰国の途にある輸送船から海に突き落とされたというエピソード(酒巻は伝聞により知る)は心が痛みます。

 第4章は帰国して郷里の徳島に帰るまで、そして、地元で嫁をもらい、新しい職を得た新天地に旅立つところで結ばれています。 軍国少年だった著者が屈辱的な捕虜になりながらも、豊かなアメリカ本土の文化と大自然に触れて、新時代の日本人として生まれ変わっていく姿が描かれた、本当に平和とは何かを考えさせてくれる一冊でした。 

 ただ、不可解な点もありました。 捕虜時代の自身の体験を正直に克明に記した本作ですが、彼自身に対する尋問の様子については どこにも、1行たりとも描かれていないのです。 酒巻は奇襲攻撃(アメリカ流に言うと”だまし討ち”)を仕掛けてきた日本軍の貴重な捕虜です。 彼に対する尋問は熾烈を極めたはずです。 ウィキペディアなどには、捕虜になった直後の彼の写真が掲載されていますが、それはたいへん異様な写真です。 屈辱的な捕虜となったはずなのに、写真の彼は奇妙な笑みを浮かべているのです。 そして、頬には無数の赤い斑点。 これは火の付いたタバコを押し付けられた跡で、捕虜虐待の証拠であるという説があります。 一方で、捕虜となった自分の写真を撮られることを恥じた酒巻が自傷したという説もあります。(ウィキは前者、山崎は後者の立場) 

 さらに酒巻は終戦後に帰国した際に、日本側からも度重なる事情聴取を受けています。 戦争が終わったとはいえ、米国でどんな証言をしたのか、どんな活動をしたのかは、日本側(政府? 旧軍部?)の関心も非常に高かったはずです。 そして米日両国の尋問は、酒巻にとっては決して心休まるものではなかったはずです。 酒巻の自宅には、彼の帰国を知った者から 「戦死者に詫びるつもりがあるなら、今すぐに割腹自殺せよ」といった内容の手紙が度々送り付けられていました。 捕虜になったこと自体もそうですが、捕虜としての屈辱的な尋問を受けた事実も、極限状態の尋問の際にどういう応答をしたのかということも、彼にとっては決して他人には漏らすことのできない秘密だったのでしょう。 


 最後に彼は、愛知県の自動車会社に請われて就職することになりますが、これはトヨタ自動車のことです。 本書によると、酒巻の元に『面談の後に希望の職にて採用させていただく』という、極めて破格の内容の”逆求人案内”が来たとのこと。 これは酒巻と海軍兵学校の同期で、同じ捕虜収容所にいた作家の豊田穣(当時は東海地方在住の新聞記者)によって酒巻のことを知ったトヨタ幹部が、『ぜひ我が社に』という事で採用されたという事らしいです。 ここで注意したいのが、当時のトヨタが まだ三河の単なるベンチャー企業だったという事です。 当時、日本で自動車産業が成立すると考える人は皆無で、名証のトヨタの株価は松坂屋や敷島パンより下でした。 しかし酒巻は、自分の第2の人生を『ひなびた田園の中で新生活をスタートさせるのもよい』と、新妻とともに三河に旅立つのです。 そして、この数奇な運命をたどった海軍士官は、今度は企業戦士として日本の再建に尽力し、結果としてトヨタのブラジル法人である トヨタ・ド・ブラジルの社長にまでなるのです。 なんという生きざまか。 山崎豊子が、”この人を書きたい”と願ったのがわかる気がします。


 予断ですが、「約束の海」では、主人公 花巻朔太郎の実家は、父親のモデルとなった酒巻の経歴により、愛知県の豊田市に設定されています。 朔太郎が帰省の時に、豊田市まで通じているはずの名鉄三河線を利用せずに(だって不便だもん)、名古屋本線の知立駅に迎えに来てもらうとか、その知立駅で名物の”大あんまき”を買って帰るとか、三河地方に住んでいる人にだけわかる ”あるある”感がとても楽しく、そしてまた、この花巻父子を少しだけ身近に感じることが出来るのです。 

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